言葉にできない
出てくるのは、涙だけ
それでも気持ちは伝わっている
始業式以降、数えるほどしか
行けなくなってしまった兄者。
それでも登校した日は
部活動へは顔を出していました。
すでに後輩ができていたものの
それは
兄者が高校説明会の時に
部活動紹介で声をかけた子たちで
兄者が来るのを待っていてくれていました。
顧問の先生もずっと変わらず
気にかけてくださり
病院やお薬の事、
ご自分が今まで対応してこられた
不登校の生徒さんとの体験談等を通して
いつも相談に乗ってくださいました。
兄者とも直接ラインで
やり取りをしているようでした。
そんなある日、先生から
「彼に会いに行ってもいいですか」
彼に聞くと返事はなく、
かといって拒否でもなく
ラインしても既読はつくものの
やはり来ないでください、との返信もなかったため
お部屋に通すことにしました。
30~40分ほどいらっしゃったでしょうか。
2階から降りてこられた先生は優しい顔で
「本当に苦しんでいますね。
直接会話は出来ませんでした。
でも十分です」と。
部屋に入っても布団をかぶり
顔も見せてくれず。
先生は足元のほうへ座り
「いい、いい。俺が勝手にしゃべるからな」
部活動に来てくれると、みんなが喜ぶこと。
1人でずっと頑張ってきてくれたこと。
先輩たちも頼りにしていた事。
新しい1年生も、待っていること。
先生の彼への思いを
ゆっくり静かに話したそうです。
最後に
「そういうことだ。じゃあ、またな」
と言って部屋を出て行こうとすると
兄者が布団から顔を出したそうです。
ただ、言葉が出てこず
何か言いたそうに
口は開くのに声が出ない姿を見て
抱きしめて背中をさすりながら
「大丈夫、わかってるからな、大丈夫」
と声をかけると
無言でずっと涙をぽろぽろ流していたそうです。
「気持ちは通じています。
あいつはちゃんとわかってますから」
と笑顔で言ってくださる先生に
感謝の思いでいっぱいでした。
その日は
笑顔で夕飯を食べ
落ち着いて静かに眠っている姿に
同じ教師で、ここまで違うものかと
改めて思い知らされました。